おしえる
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  発祥の地・中野から江戸そば文化を発信 “おしえる”ことで得た限りなき成長体験

発祥の地・中野から江戸そば文化を発信 “おしえる”ことで得た限りなき成長体験 『桃園そば打ち会』会長|Hirofumi Tanaka

  • 田中博文さんの家業は、着物を解いて端縫い、一枚の布にしてから洗濯をする「洗い張り」の専門店。東京中野にある店舗兼自宅の地下には、反物を洗濯、乾燥させる“張り場”があります。「20年前に建て替えた時は、この張り場でそば打ちをおしえるなんて思いもよらなかった」という田中さん。

    おしえることになった背景には、どんなSTORYがあったのでしょうか。

何気なく入った北軽井沢のそば店が、人生を変えた

  • お宅に伺ったとき、ぱっと目に入ってきたのは「呉服」とかかれた看板でした

    もともと私の父は「洗い張り」、母は呉服の販売をしており、大学卒業後、私も家業に入りました。販売業は20年ほど前にやめましたが、洗い張りのほうは今も続けています。

  • 呉服とそば打ち、両方とも和のものではありますが、意外な組み合わせですよね

    そうですね。本当に不思議なご縁で。

    13年前、母を旅先の草津まで迎えに行ったことがきっかけで、私の“そば道”がはじまったんです。

  • と、いうと?

    帰宅途中、北軽井沢に立ち寄ったんですが、とあるそば屋の店先にあった“電動の石臼”に目が留まりまして。

    「へえ、そば粉ってこんな風に挽くんだ」と感心しながら、吸い寄せられるように入店し、おそばをいただいたのですが、それがもう、仰天するほど美味しくて!

    東京で生まれ、育ちましたが、それまで食べていたおそばといえば、田舎そば。茨城にある母の実家に出されたそばは真っ黒で、太くて、短くて……「なんだか美味しくないなぁ」って感じだったんです。

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  • 格別なその一杯が、そばへの興味につながったんですね

    さらにその2か月後、私の“そば道”に追い風が吹く出来事があって。

    妻の実家がある山梨の、とある夏祭りに行ったんです。山梨といえばほうとうが有名なのに、なぜか「手打ちそば」ののぼりを出すお店があって。思わず入店し、そばを打っている人、茹でている人の様子をじっと見ていたら、そのうちのひとりが「あんた、そんなにそば好きなのかい?だったら、うちの『TOKYO蕎麦塾』に入ってみるかい?」と誘ってくれまして。インターネットで仲間を募り、そば打ちを楽しむ会でした。

  • まさに、とんとん拍子ですね!

    この『TOKYO蕎麦塾』に入ったことで、師匠のそば名人から、本格的なそば打ちを習得することができたんです。

  • それまで、ご自身でお料理をすることはあったんですか?

    家業があったので一度はあきらめましたが……実は私、若い頃からずっと板前に憧れていたんですよね。そばを習う以前は、男性を対象にした料理教室に通ったこともありました。

美味しいそばを打つには美しい所作が必要 感性までおしえ込む

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  • 板前を夢見ながらも、そば屋を開店せず「おしえる」ことに徹しているんですね

    お店を持つのは永遠の憧れです。でも、『TOKYO蕎麦塾』の師匠から「田中さんはおしえるのが上手だから、店主よりも講師に徹したほうがいい」と強く勧められまして。

    40年間所属している消防団でも、救命講習会の講師を引き受けています。もともとおしえるのは嫌いではなかったんですよね。

  • 技術を習得してから、どのようにして人におしえる場を作ったのですか?

    2012年に全麺協主催の認定制度「素人そば打ち三段位」に合格し、人におしえることにしたのですが、最初は手探りで。

    消防団でそば打ち同好会を作ったり、そこにケーブルテレビの取材を誘致したりして、少しずつ生徒を集めていきました。

  • 『桃園そば打ち会』を立ち上げたのは、どのようなきっかけで?

    そば打ち会は、基本的に「地域にそば文化を広める・根付かせる」ことを目指しています。だから各地にあるはずなんですが、なぜか中野にはなかったんですよね。一説によると、中野は“江戸蕎麦文化のゆかりの地”とされているのに。

    そんなご縁も手伝って、2015年に『桃園そば打ち会』を発足しました。

  • おしえる立場になってから“発見”や“気づき”はありましたか?

    準備から後片付けまで、すべての作業をやり遂げる“感性”がないと、美味しいそばは打てない、ということです。

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  • 具体的にはどういうことでしょうか?

    手元や出来などの“点”で見るのではなく、“線”としてとらえ、プロセスの一つひとつを丁寧にこなすことが大切なんです。

    例えば、打つ所作に無駄な動きがあると、いいそばは打てませんし、後始末を他人に押し付けるなど、もってのほかです。

  • 育ち切った大人に、感性をおしえるのってなかなか難しそうですね

    講座では、必ずお話しすることが2つあります。

    1つめは「食物(粉)」を大切にすること。

    日本は食物輸入国であるにも関わらず、その6割が捨てられているという現実があります。このことを意識して、そばを打つ時に出た切りくずは、絶対に捨てないでね、と。

     

    2つめは「道具の手入れ」です。

    消防団でもそうですが、「器具愛護」をしないと、いざというときに道具が動いてくれないんです。これは職方では当然のことなのですが。

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  • 美味しいそばが作られる背景には、食物や道具を大切にする「心」があるんですね。

そばは“マイナー”な和食? 危機感で「ストアカ」に登録

  • 『ストアカ』に登録したきっかけは何だったんですか?

    2013年に和食が世界無形遺産に登録されましたよね。

    その直後に「和食と聞いてイメージするものは?」というアンケート結果が発表されたんです。対象は確か、日本の若者、そして外国人のシェフでした。そのランキングに、なんとそばが入っていなかったんです。

  • 寿司、天ぷらは入っているのに?

    そうなんです!ラーメンがランクインしているのに、そばはない。

    その時、自分のやっているそば打ちが、実はマイナーであることに気づきました。

    そこで、若い人にもっと食の大切さ、そばの美味しさ、楽しさを知ってもらいたいとネットで生徒募集することにしまして。適した場を探した結果、たどり着いたのが『ストアカ』だったんです。

  • 『ストアカ』登録によって、参加者層は変わりましたか?

    若い女性が増えましたね。

    私の一番下の子どもが33歳ですから、子どもよりも若い人と触れ合っていると思うと、不思議。刺激的ですが、緊張感もあります。

  • そば打ちを「おしえる」ことによって、接する人の層がぐっと広がったんですね

    “そばは人をつなぐ”という言葉がありますが、それを日々実感しています。

    老若男女問わず、時に国籍を超えて人と接することができるのは、実に面白いですね。

おしえるとは「自分が習う」こと 常にあるのは育つための向上心

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  • これまでおしえていた中で一番苦労した思い出はありますか?

    前述の「素人そば打ち段位認定制度」は、そば打ちの技能、姿勢や態度、地域貢献度を問われるもので、私は現在、最高段位のひとつ下、4段を取得しています。

    先日うちの生徒さんが3段を受け、めでたく合格したのですが、それに向けての指導の道のりは大変険しいものでした。

    温厚と言われるこの私が、年上の人に対してめちゃくちゃ怒ったんですから(笑)

  • それは、先ほどおっしゃられていた「感性」をおしえる難しさでしょうか?

    この方は、この教室に通い始めた当初、奥さまもあきれるぐらいの雑多なタイプの人で。そばを打てば粉を散らす、切ったそばは汚い……合格できる見込みがあるのかな?と最初は半信半疑でした。

    しかし、本人のがんばりもあって、美しいそばが打てるようになった。これは感性が磨かれた証拠です。

  • 還暦を過ぎても、人は育つんですね。勇気と希望が湧いてきます

    私は今年65歳になりますが、未だにおしえながら自らを育てています。

    人におしえる=自分が習うことなんです。習ってきたから、難しい3段を合格させるノウハウが蓄積できたと思っています。

  • 「おしえる」ためには何が不可欠だと思いますか?

    体力と成長し続けるための向上心ですかね。ここまででいいや、という精神では先生は務まりません。

  • 「おしえる」ことは好きですか?

    好きです。人と接するのも、人前で話すのも好きです。

    これまで500人以上の人におしえてきましたが、今後も体力のある限り、続けていきたいです。

  • 最後に。田中さんにとって「おしえる」とは?

    生きていく糧、ですね。

  • 田中さん、素敵なSTORYをありがとうございました!

     

     

    編集後記:「これまで何も考えずにおそばを口にしていた自分が恥ずかしい!」と思ってしまうぐらい、そば打ちには「和の心」がぎっしり詰まっていました。心・技・体をもって、深い世界へ導くことができる、田中さんの人間性に、尊敬の念を抱かずにはおれませんでした。取材後に食べたおそばの味は、それまでよりずっと、美味しく感じられました。


  • 先生のプロフィール

    田中 博文

    田中 博文さん(Hirofumi Tanaka)

    中野は江戸以来のそばの所縁の地です! 中野生まれで地元にそば打ち仲間の輪を広げるために平成24年から始めました!そば打ち歴10年です!手打ちそばの楽しさ、美味しさを体験していただきます!そば打ちを丁寧に教えます

先生の教えている講座

講座 手打ちそば体験
受講料 2500円(3時間30分)
定員数 5名
申し込み https://www.street-academy.com/myclass/3475

※2018年07月17日現在の情報です。

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