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STORY

  「自分らしさが出せるあたたかい場」をつくるプロ

「自分らしさが出せるあたたかい場」をつくるプロ インタラクティブ・スピーチトレーナー|Koichi Iwashita

  • ビジネスと演劇という異色の経歴を持つ岩下先生のキャリアの軌跡と、教える活動で大事にしていることをテーマにお話を伺ってきました。

NTTの人事から、劇団四季を経て再び人事の世界へ。「自分のやりたいこと」と「求められていること」とを考え続けた10年間

  • NTTから劇団四季へと大きなキャリアチェンジを決めた経緯は何でしたか。

    元々ミュージカル映画を観るのが好きで、幼いころからずっと憧れを抱いていました。当時の私は、いわゆるビジネスの評価軸だけで判断されることに疲れていたのか、自分のありのままを表現したいという思いが強まり、ミュージカルの専門学校に通い始めます。その時29歳でした。その半年後、劇団四季のオーディションがあると知り、ほんの好奇心から挑戦しました。すると運よく合格したんです。

    NTTの人事という恵まれたポジションを捨ててまでやりたいことなのかとかなり悩みましたね。当時の劇団代表の浅利慶太氏からは「入団して必死で努力しても、舞台に立てる機会はまずないと思ったほうがいい。それでも挑戦したいなら、腹を決めて来い」と言われました。「せっかくオーディションに受かったのに、ここで断れば将来きっと後悔する」と思い、劇団に入ると決心したのです。 幸いなことに、『ライオンキング』ではシンガーとして、『嵐の中の子どもたち』というミュージカルでは台詞もソロもある村長の役を、任せてもらえることができました。

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  • そんな厳しい世界で、すぐに活躍されていたのですね!劇団四季から人事採用支援会社へと移られたときも大きな決断だったのではと思うのですが、きっかけは何でしたか。

    直接のきっかけは、劇団との出演契約が切れたことでした。NTTの人事から、憧れていた演劇やミュージカルの世界へと飛び込んだ当初は、自分そのものを表現できると意気込んでいました。「素人はほとんど生き残れない」と言われるほどシビアな世界で、幸運なことに役にも恵まれていた。

    ところが、公演が100ステージを過ぎたくらいから、どこか違和感を覚え始めている自分がいたのです。劇団四季の演目はロングランが多いので、同じ役で同じセリフを毎日言い続けることになります。もちろん、その中で自分なりに日々課題を見出し、克服する努力をし続けるのが俳優の仕事です。しかし、次第にそうした気持ちが薄れ、「自分にとっては、ビジネスの現場の方がよほど毎日、変化があったんじゃないか」と思うことが増えていきました。また、一流の俳優、スターたちを間近に見て、人が持って生まれた「役どころ」の違いも痛感しました。自分は、この人たちのようにはなれない、と(笑)。

    縁あって人材採用支援会社に入社し、人事の世界に戻ることに決めました。様々な規模、業種の企業の人事コンサルティングを経て、人事部をはじめとする管理部門を統括する管理部長になりました。傍からは順調にキャリアチェンジしたと見えたかもしれません。ですが、転職して半年くらいのタイミングで、大きな戸惑いを覚えたのです。

    大手企業の新卒採用となると、非常に多くの学生が応募しますよね。採用の初期段階では、一定の合格基準を設け、それに応じてどんどん合否を決めていきます。私企業の経済活動である以上、合理性を考えれば当然のことです。そこでいかに企業の採用基準を満たす応募者を選べるかにこそ、サービスの価値がある。しかし私は、演劇という全く畑違いのジャンルに飛び込んだことで、実にさまざまな個性と出会いました。人は一人ひとり違います。その個性のゆらぎや機微を拾いきれないことに対して、もどかしさが頭をもたげてきました。そして気づいたのです。「ど真ん中でやりたい仕事じゃなかったんだ」と。

  • レイヤー 1
  • ご自身のやりたいことの「ど真ん中」ではなかったと?

    ええ。部下を育成する立場にありながら、内心は葛藤を抱えたまま約10年間の年月を過ごしました。途中、それに耐えきれなくなり、うつ病で会社を休んでいた時期もあります。 それでも、なかなか辞める決断ができなかったのは、「今度こそ、ちょっとやそっとではやめない」という気負いがあったから。そして劇団の契約打ち切りとなったときに感じた痛切な悔しさが尾を引いていたのでしょう。人から必要とされている限り仕事を続けなければ、という思いがありました。

    キャリアを考えるうえで、「自分のやりたいこと(Want)」、「自分のできること(Can)」、「社会から求められていること(Need)」の重なる仕事をやろう、とよく言われます。自分のキャリアにあてはめると、劇団にいたときはWantにばかり焦点があたっていた。そして、人材採用支援に転職してからは、CanNeedは満たされていたものの、Wantが置き去りになっていたように感じます。私は、このWantを大事にできるようなキャリアを模索していたのです。

  • そんな葛藤を抱いておられたのですね。そこから独立して、ストリートアカデミーの講師を始められた経緯について、教えていただけますか。

    前職の頃から、独立する道を考え始めていました。起業志望者のコミュニティに通っていたところ、こんなアドバイスをいただいた。「劇団とビジネスの両方の経験を積んでいる人はまずいない。そのキャリアにこそ、あなたの強みがあるのでは」と。 そこでまずはプレゼンテーションや伝え方の勉強会を自主開催しようと思い立ち、始めたのが「自由すぎて 楽しすぎる はじかきプレゼン」でした。

    内容は、毎回お題を決めて、参加者が5分でプレゼンし、10分でフィードバックし合うというもの。第一回目の参加者は数名でしたが、思いのほか好評で。「先生のファシリテーションって、あたたかみがある」、「ぜひ継続的に開いてほしい」という言葉をいただいて、自信になりましたね。毎回工夫を凝らしながら、現在では参加者は100名を超えました。 その後、勉強会を発展させ、セミナーを開催してみようと思い、セミナーのプラットフォームを探す中で偶然見つけたのがストリートアカデミーでした。非常に使いやすい仕組みだし、デザインが洗練されている一方、良い意味で「色」がないのがいいなと感じたんです。その後、自分のやりたいことをやろうという思いが強まり、2014年7月に独立してB e yourselfを設立しました。

「相手の感じていることにふれたい」という思いが原動力

  • レイヤー 2
  • 勉強会やセミナーで心がけていることは何ですか。

    参加者一人一人が感じているものを引き出すことと、相手が自分の気持ちを自然と話したくなるような雰囲気づくりですね。例えば、何か言いたいことがありそうなのに、話すのを躊躇している人がいたら、「○○さん、どうですか」と水を向ける。その場に流れる空気を感じとりながら、みんなからいかに良いフィードバックを引き出してプレゼンターに伝え、密度の濃い空間をつくるか。こうした点を大事にしています。

    プレゼンテーションって、プレゼンターが「自分の中の大切なもの」を見せてくれる尊い機会なんです。 どの人にも必ず良いところがあるので、それを掬いとり、「それって素敵だね」と伝えるようにしています。自分の強みって自分ではなかなかわからないですよね。ささいな言葉で、相手に「私ってこんな強みがあったんだ」と気づいてもらえたときや、気持ちを通い合わせることができたときに、心から嬉しいと感じます。「相手の感じていることにふれたい」という興味が人一倍強いんでしょうね。 もちろん、もっとプレゼンテーションが上手になってもらえるよう、一人一人の状況をじっくり観察し、改善点をフィードバックします。ただし、フィードバックを受け止めてもらうには、相手の自尊心を守ることが前提です。「ここまで言うと傷つく」というラインは一人一人違うので、それを超えないよう、相手の心に響く伝え方を心がけていますね。

  • レイヤー 3
  • 先生がこれほど細やかに相手の気持ちを汲み取れるのは、なぜなのでしょうか。

    幼い頃から周囲の大人の反応をよく観察する子だったんです。あとは、人事をしているときに3,000人以上の方々と面接をしてきたので、「こういう表情をしているのは、こういう思いがあるからかな」などと、短時間で察知できるくらいにセンサーが磨かれていったのでしょうね。相手の表情やしぐさだけを見て判断しているのではなく、その表情に至るまでの文脈、流れを観察しているから、相手の本心や考えが人よりもよく見えるのかもしれませんね。

  • その表情やしぐさをするに至るまでの「流れ」も観察しておられるのですね。どうしたら、岩下先生のように、人の心の扉を開けられるのでしょうか。

    目の前の人に心を開いてもらうには、まずこちらから先にさらけ出すことが大事だと思っています。私は、自分の感じていることを知ってほしいという思いが強いんです。一種、「感情の露出狂」みたいな面があって(笑)感情の起伏も激しいし、自分のことを包み隠さずオープンにしています。すると、相手も「じゃあ私も素の自分を出していいんだ」と、自然と心を開いてくれるんでしょうね。

やりたいことがあるのに、一歩を踏み出せないのはなぜ?

  • レイヤー 4
  • やりたいことに踏み出せないという若手ビジネスパーソンに、どんなことを伝えていきたいとお考えですか。

    「やりたいことがあるなら、まずやってみたら」と伝えたいですね。 前職で管理部長していたとき、社員からよく「本当はこんな仕事に挑戦したいんです」と相談を受けました。立場上、はっきりと「やってみたら」とは言えませんでしたが、そのたびに彼らの背中を押したくてたまらなかった。 たとえ試してみて失敗したり挫折したりしても、失うものは実はそんなに多くないんです。もし一時的に無職になっても、日本には手厚いセーフティーネットがあります。

    じゃあ、なぜ一歩を踏み出せないかというと、単に本人が失敗して傷つくのが怖いというケースが多い気がします。 とはいえ、新しい世界に飛び込むが怖い気持ちも、痛いほどわかります。私自身がそうでしたから。例えば、ミュージカル専門学校の入学試験に応募する段階ですら、「演技やダンスの猛者たちばっかりなんじゃないか」と、書き上げた願書を投函するまでに1か月かかりましたから。ですが実際に受けてみると、普通の応募者ばかりで、そこまで怯える必要はなかった(笑)

    そもそも、本当に自分がやりたいことかどうかは、試してみないとわからない。やりたいことをすぐ明確に見つけられる人もいますが、私は少しずつやりたいことに近づいていくような人生を歩んでいます。こうした自分の経験を踏まえて、若い人たちのチャレンジをけしかける人でありたいですね。

  • 失敗して傷つくのが怖いという気持ちを、少しでも和らげる方法ってあるのでしょうか。

    人って、すでに成功を収めている人と今の自分を比べて、「どうすればあんな風になれるんだろう」と悩み、落ち込むことが多い気がします。でも、本来比べるべき相手は、まだ何も行動していない昨日の自分と、行動を起こした今日の自分ではないかと思うんです。すると、「昨日よりは先に進めている」と感じられ、心のストッパーをはずせるのだと思います。 実は劇団四季のオーディションに受かったとき、私自身、世の中を甘く見ているところがありました。「割と楽に理想に手が届くんじゃないか」って。ですが、ごく一部の天才を除くと、華やかな表舞台にいる人たちは、今のポジションを築くまでにものすごい努力をしているわけです。ビジネスでも芸術でも、その人の実績や信頼というのは、これまで積み上げてきた努力に比例するものではないでしょうか。

  • レイヤー 5
  • 最後に、岩下先生がこれから挑戦していきたいことを教えてください。

    「一人ひとりが自分らしく輝く機会と場を提供する」という想いを軸に、研修やセミナーはもちろん、事業の様々な可能性を探っていきたいですね。 人は誰かに承認されることで、ものすごくパワーを出すことができます。例えば、こうした動機づけを、企業内の活性化や人事制度の構築に活かすことで、社員が今以上にやりがいを持って働けるような環境を生み出すお手伝いができるんじゃないかと思っています。

    また、この想いは、仕事には限りません。ふだんは忙しく働く人たちが、肩の力を抜いて、のびのびとした自分に戻れるような場をつくりたいとも考えています。いまはまだ不定期ですが、山野草の盆栽を作り、そのあとお茶をしながら語らうという、ワークショップを開催しています。これもまた、自分らしさを大切にする場所です。 社名の「Be yourself」の通り、「まがいものではなく、本物の自分になろう」というメッセージを今後も伝えていきたいですね。


  • 先生のプロフィール

    岩下 宏一

    岩下 宏一さん(Koichi Iwashita)

    京都大学法学部卒業後、NTTに入社。本社人事部配属。NTTコミュニケーションズ設立時の人事部立ち上げに参画。仕事の傍らミュージカルの専門学校に通い、劇団四季のオーディションに合格し、エンターテインメントの世界に飛び込む。「ライオンキング」他3作品500ステージに出演。退団後は人材採用支援会社に入社し、コンサルティング業務を経て、同社人事部長となる。2014年7月に独立し、Be yourself設立。人事と役者経験を活かした「人を惹きつけるスピーチ」を武器に、インタラクティブ・スピーチトレーナー、人事コンサルタント、研修講師として活躍。

先生の教えている講座

※2016年08月03日現在の情報です。

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